こんにちは。理科教師の試薬35です。
皆さんは、自分の名前にどんな由来があるか知っていますか?親御さんの愛情や「こんな風に育ってほしい」という願いが込められていることが多いのではないでしょうか。
実は、化学の世界を形作る「元素」たちにも、発見した科学者によって名前が付けられています。でも、中には人間の勝手な都合や勘違いで、ちょっと可哀想な、残念すぎる名前を付けられてしまった「不憫(ふびん)な元素」たちがいるのです。
※本題に入る前に少しだけ。今回の主役は「元素」です。世の中のあらゆるものを完成した「ジグソーパズル」だとすると、元素はパズルを構成する「ピース」の種類のこと。今回は、そんなピースたちにつけられた名前の裏話です。
今回は、そんな不憫な元素たちを、以下の3つの指標(★5段階評価)でランキングにしてみました。
• ①名前の不名誉度(名前の意味や響きがどれだけマイナスか)
• ②由来の理不尽度(人間の勝手な都合や八つ当たりか)
• ③現実の貢献度(現代社会でどれだけ役に立っているか)
それでは、ちょっと笑えて最後はハッとさせられる、元素たちの裏話を見ていきましょう!
第5位:臭素(Br)

• 不名誉度:★★★★★
• 理不尽度:★☆☆☆☆
• 貢献度:★★★★☆
ギリシャ語の「bromos」が由来ですが、その意味はずばり**「悪臭」**。
たしかに本当にツンとする刺激臭がするので、理不尽ではないのですが……一つの身体的な特徴(ニオイ)だけで一生呼ばれ続けるなんて、すごく可哀想な気がしますよね。少し沈んだ気持ちになってしまいます。
でも、安心してください。臭素はただ臭いだけの存在ではありません。燃え広がるのを防ぐ「難燃剤」として家電や建材に使われたり、医薬品の原料になったりと、見えないところで私たちの安全を守ってくれている働き者なのです。
第4位:コバルト(Co)

• 不名誉度:★★★★☆
• 理不尽度:★★★☆☆
• 貢献度:★★★★★
美しい青色のイメージがあるコバルトですが、由来はドイツの伝承に登場する「山の悪霊(コボルト)」です。
昔の鉱夫たちは、この鉱石から銀を取り出そうと頑張りました。でも、どうやっても銀が出てきません。「どうして銀が取り出せないのだろう?」と悩みますよね。結果、彼らは**「悪霊の嫌がらせだ!」と八つ当たり**してしまったのです。
科学的に見れば、コバルトは「硫黄やヒ素との結合性が強い」だけでした。人間の未熟さのせいで悪霊呼ばわりされたコバルトですが、今やスマートフォンなどに使われる「リチウムイオン電池」に不可欠な存在です。現代社会の覇者として、堂々と輝いています。
第3位:ニッケル(Ni)

• 不名誉度:★★★★☆
• 理不尽度:★★★☆☆
• 貢献度:★★★★★
ニッケルの由来は、4位のコバルト(悪霊)よりもさらに格上の**「悪魔の銅(クプフェルニッケル)」**です。
当時の鉱夫たちが「銅の鉱石だ!」と思って必死に製錬したのに、一向に銅が取り出せませんでした。そこで「悪魔が銅を隠したに違いない」と、またしても八つ当たりで名付けられたのです。「偽物」と罵られた理不尽な過去、すごくわかりますよね。
しかし現在、ニッケルは私たちの生活に最も密着しています。身近なところでは50円玉や100円玉の材料ですし、サビに強い「ステンレス鋼」の主成分でもあります。悪魔の偽物から、私たちの生活の土台へ。このエモいギャップ、たまりません。
第2位:アルゴン(Ar)

• 不名誉度:★★★★★
• 理不尽度:★★★★☆
• 貢献度:★★★★★
空気中に3番目に多く含まれる身近な元素ですが、その名前はギリシャ語の「argos」、意味はなんと**「怠け者」**です。
アルゴンは、他の物質とまったく反応しないという性質を持っています。でも、反応しないからといって「怠け者」と罵倒するのは、あまりにも理不尽ではないでしょうか?
実は、この「他のものと反応しない(安定している)」という性質こそが最大の長所なのです。熱を持った電球のフィラメントが燃え尽きないように保護したり、金属の溶接時にサビを防ぐカバーの役割をしたりと、裏方で誰よりも一生懸命働いています。性格(性質)を否定された過去を乗り越え、長所として活かす姿に勇気をもらえますね。
第1位:窒素(N)

• 不名誉度:★★★★☆
• 理不尽度:★★★★★
• 貢献度:★★★★★
堂々の第1位は、私たちが毎日吸い込んでいる窒素です。
名前の由来は**「お前を吸うと窒息するから」**。……これ、とんでもない冤罪(えんざい)です。
たしかに、窒素だけの空間に入れられたら人間は窒息してしまいます。でもそれは「窒素に毒がある」からではなく、単に**「生きるために必要な酸素がないから」**ですよね。それなのに「窒息の素(もと)」と名付けられた理不尽さ、ナンバーワンと言って良いでしょう。
しかし実際の窒素は、私たちの体を作るタンパク質やDNAに絶対に欠かせない成分です。さらに、農作物を育てる肥料の主成分でもあります。人類の食糧と命を支える、不動の「貢献度1位」の元素なのです。
番外編:ドブニウム(Db)

• 不名誉度:★★★★★(※日本語限定)
• 理不尽度:★★★☆☆
• 貢献度:★☆☆☆☆
最後に番外編です。
ドブニウムは、ロシアの研究所がある地名「ドゥブナ」が由来です。実はこの元素、アメリカとソ連(当時)の間で「私が発見した!」「いや、うちだ!」と泥沼の命名権争いが起き、長年名前が決まらなかったという「大人の事情の犠牲者」でもあります。
そして何より不憫なのが、日本語に翻訳された際の響きです。
「ドブ(溝)」。
……残念ながら、名前の響きだけで少し汚いイメージを持たれてしまうという、痛恨のローカライズバグが起きてしまいました。しかもこのドブニウム、人工的に作られた元素で一瞬で消滅してしまうため、現代社会での実用性はゼロ。何のフォローもできない不憫さに、思わず涙を誘われます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
当時の人々の勘違いや、言語の響きの違いによって、少し残念な名前になってしまった元素たち。でも、失敗や遠回りのような名前の歴史も、科学が少しずつ成長してきた大切なデータ(プロセス)なのだと思います。
実は、ドブニウムのように「言葉の違い」で損をしている、あるいは全く違う呼び方をされている元素は他にもたくさんあります。
例えば、私たちが普段よく聞く**「ナトリウム」や「カリウム」という名前。これ、英語圏の人には全く通じない**ということをご存知でしょうか?
えっ、じゃあ英語でなんて言うの?と気になった方は、ぜひこちらの記事も覗いてみてくださいね。
[【化学の裏話】ナトリウムは英語じゃない!? 言語で名前が違う元素たちの不思議(仮)へのリンク]



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